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留学生と企業の架け橋として、専門学校ができること
多くの専門学校が留学生受け入れを拡大する一方で、留学生の国内就職率は低迷している。それは一体なぜなのか。また、この課題の解決に向けて、専門学校として何をすべきなのか。
行政書士として留学生の在留資格変更手続き、日本企業へ留学生雇用のアドバイスを専門に行っている末吉由佳氏にお話を伺った。
企業から内定を得た後、在留資格の変更の申請をしても、結局、就労の在留資格が取得できず、帰国せざるを得ない留学生が少なくないことが問題だと思っています。
例えば、「アルバイトの留学生はすごく真面目に働いているから、卒業後もそのまま採用したい」と希望する企業は多々あります。しかし、就労するためには在留資格を「技術・人文・知識・国際業務」等に該当する業務内容に変える必要があり、アルバイト時の単純労働とは異なる業務へ転換しなければなりません。コンビニなら本部勤務、工場なら事務系や企画系の業務などですね。企業にとってこのハードルを越えるのが難しいことが、留学生が就労の在留資格を取得できない要因だと思います
入国管理局の審査では、専門学校で勉強した内容と、採用先の業務との深い関連性が問われます。そのため申請の際、企業は配属部署の業務の詳細(出社して退社するまでの業務スケジュールや将来的なキャリアパス等)の提出を、留学生本人には成績表と学校のシラバスの提出が求められ、入管はその双方の関連性をチェックします。ここで関連性が認められれば許可されますし、認められなければ不許可となります。
ただし、関連性はあっても、その業務が単純労働であると判断されると不許可となります。
例えば、申請する入管によっても多少異なるのですが、学部学科名と業務内容についてのみを見て関連性のあり・なしを審査する入管もあれば、シラバスや成績表などから業務内容に関連する科目が見つかれば関連性ありと審査する入管もあります。関連性に関しては申請する側に立証責任があるので、申請の際に資料をきちんと準備する事が必要です。
さらに、関連性が認められても、簿記の勉強をした留学生を一般企業の経理部門で採用しようとしたところ、「経理ソフトが普及しているから、経理部門の入力業務は単純労働」とみなされ、就労の在留資格を取得できないケースもありました。また、業務の中に「技術・人文・知識・国際業務」に該当しない内容が含まれてしまうと不許可になる場合があります。具体的には、職務内容に店舗での接客業務が含まれていたため、不許可になったケースがありました。
一方、スタートが単純労働でも、最終的には企画部等、専門業務にキャリアアップするというスケジュールが描けていれば、許可されることもあります。関連性・専門性についてはそれぐらい細かく審査されるのだということを企業はしっかり認識する必要があります。
在留資格の変更申請のケーススタディはこちらをご覧ください
現状でも各専門学校で取り組んでいらっしゃると思いますが、まずは留学生一人一人へのきめ細かい就職指導を徹底することです。例えば、「この学部・学科で就職できるのは、○○の業務・職種で求人している企業です」と具体的にアドバイスする。そのためには、どの企業のどの部署に、自校の留学生が就労できる職務・ポジションがあるのか、あらかじめ各企業と連携し把握しておくことが重要になると思います。
そうです。企業向けに留学生採用に関する説明会を実施し、採用にあたっての注意点を認識してもらうよう努めている専門学校もありますが、とても良いことだと思います。
アルバイト先から「卒業後、採用したい」と言われると、「これで間違いなく就職できる」と簡単に考えてしまい、その他の就職活動をあまり一生懸命取り組まず、その結果、就職に失敗する留学生がいます。ですから専門学校として、留学生に「勉強内容と業務に関連性が認められなければ、就労の在留資格への変更はできないのだ」としっかり伝えてもらいたいと思います。また、留学生が就職活動で企業を訪問する際、専門学校で学んだ内容がわかる詳細な資料を持参させてほしいです。そうすると、企業はその留学生が就労可能な業務・職種について検討しやすくなりますし、在留資格変更の申請書類も作りやすくなります。
都内の専門学校ですと、都内就職が圧倒的に多いと思いますが、実は埼玉、茨城、栃木など関東近県で留学生向けの求人が結構出ています。例えば、デザイン系やIT系等で賃料の安い地方にオフィスを移転したものの、人が集まらないと悩む企業があります。ここには確実に専門学校卒の留学生が就労できる仕事があるのにと、いつも思います。専門学校には、留学生に対してより広い視野で就職先を探すアドバイスやヒントを伝えてほしいですね。
専門学校が、「日本で働きたい留学生」と「採用したい企業」の架け橋となって、双方がうまくマッチングできるようコミュニケーションを密にしていくことこそが、留学生の就職率向上をもたらします。「日本国内での就職を目指して留学したのに就職できない」というケースを少しでも減らすために、ぜひ今できることに取り組んでほしいですね。それが、日本の専門学校に対する留学生の信頼や安心につながっていくのですから。
<プロフィール>
末吉 由佳氏
平成19年、行政書士会に登録。行政書士法人の入管業務の責任者になり、留学生の在留資格変更手続き、外国人起業家のサポート等に従事。平成22年、「行政書士末吉由佳事務所」を開設。