学生募集から就職支援まで、最新の情報を集約。
アメリカは国土が広いことから古くはラジオや衛星通信による遠隔教育などメディアによる教育実践の歴史が古く、広い分野でメディアによる教育実践の深い経験を持っています。
そのような永い経験で蓄積したeラーニング活用の成功例には、俗にLessons Learnedといわれる極めて価値のあるeラーニング活用成功のための法則が含まれており、専門学校でのeラーニング活用というスタンスで重要な法則を考察しました。
数多くある成功の法則の中から、今回取り上げる重要なテーマは
です。
専門学校の強みは就職に強いことにあり、例えば大学に通いながら専門学校で学ぶ生徒の就学の動機は就職に有利であるが故、ということは社会の共通認識になっています。その強みを鮮明に維持する為に専門分野のカリキュラムは社会ニーズに遅れること無く、実務の実践能力の育成を反映したカリキュラムという特色を維持し続けることにあります。従来からもカリキュラムの最新化は専門学校の特徴でありましたが、この特徴を磨き続けることが重要であると成功事例が示しています。
カリキュラムは主要な就職先が必要とする能力(コンピテンシー)を把握し、そのニーズを満たす能力育成に合ったカリキュラムを設計し、カリキュラムの持つ教材内容の教材をプロフェッショナルな技術力で開発することが重要なことになります。
特に平凡なカリキュラム開発法と特徴のあるカリキュラムとの差は、カリキュラム設計の方法にあります。それは育成したい能力を定めたら教育するカリキュラムを決める前に、必要な能力が身についたか否かを確認するテスト法を先に開発し、そのテストをクリアーできるカリキュラムを設計するというカリキュラムの開発法にあります。
この方法だと何ができるようにするかという学習目標をまず決め、その目標をクリアーできるカリキュラムを決めるわけですから、学習の仕組みとしては限りなく、学習目標を達成できるカリキュラム開発法を追求することになるわけです。このようなカリキュラム設計法はインストラクショナル・デザインによる方法ですので、組織的にカリキュラムを策定する場合に適しています。またこのようなカリキュラム設計法が組織的に身につくと常にカリキュラムを見直す手段を得たことに成り、カリキュラムの陳腐化を防ぐために役立つ貴重な組織文化となります。
1998年にシアトルの近くにあるNorthWest Center for Emerging TechnologiesというICTの技術を教えるコミュニティースクールにeラーニング活用事例の調査で訪問を致しました。この学校は高校生や短大生などが就職する際に本人の特色を上げるためにICTの技術を教育するコミュニティースクールで、卒業したからといって特に専門士のような資格は得られないのですが、学校のあるベルビュー地区ではNorthWest Center for Emerging Technologies を出たと言うことで持っている専門能力を評価され、給料があがるという習慣が確立され、多くの学生と地元企業の信頼を集めていました。
この学校は学位や資格が取れる訳ではなく、学んだことによる能力だけが売りものですので、学ぶ内容、即ち地元企業の要求する能力の調査を常に実施して、地元の企業が望むICT関連の必要能力リスト(コンピテンシー・ディクショナリー)を作成していました。このコンピテンシー・ディクショナリーは公開されていて、地元企業とこのコンピテンシー・ディクショナリーを軸に対話を続けて行くことで常に新鮮なカリキュラムを組むことができるとのことでした。学位や資格よりも中味が勝負という本当に真剣なカリキュラム開発プロセスを見ることができました。
学習法の進化とは生徒をマスとして見るのではなく、生徒を個人として見て、各個人に適した学習法を提供することです。また生徒も単位取得のための一定の達成基準はあるものの、基本的に学習目標は自分で決めるという生徒中心の学習法(Learner Centric)で学習することになります。その学習法で得られる学習成果は“憶える”ことではなく“出来る”ことに進化します。
その為に学習のために必要な機能は基本的な知識を得ることと、自分の出来る目標に向かって得た知識を“出来る”という学習成果に進化させるための学習プロセスが必要になります。それがスキルを身につける場合は実習であったり、知的能力の場合は学習仲間とのコミュニケーション、コラボレーションによる知識の練り込みであったりします。つまり教育法がこどもを教える教育学のPedagogyから成人教育学のAndragogyに進化します。
また先のレポートでも取り上げましたように、教育の内容を知っているエキスパートが必ずしも、教え方のプロであるとは限らないということと、eラーニングによる教育では量的、地域的に拡大して教育する可能性があるために教師または補助教師の教育法の教育は欠かせません。これはよくいわれるFD(Faculty Development)のことで、学校で採用した教育システムによって、教育するノウハウを学ぶことです。教育システムが良く出来ていても教育運営をする教師や補助教師の教育法のレベルが低くては期待する教育結果は出せないことになります。
先に事例として紹介したUniversity of Phoenixはこの徹底したFDの実践で有名な学校です。
これはカリキュラムの策定と教材開発との分離です。ICT技術が高度に発展した昨今、教材の開発および制作は立派なプロフェッショナルの業務領域です。従って教師の方々が教材作成ツールの使い方を簡単に勉強して、教材を自作するという構想を考えるのは間違いです。教師は教育ニーズの把握、必要能力の策定、カリキュラムの策定に専念すべきで、一般的に教師は教材開発・制作の分野はまったくの素人で、教師に教材開発と制作を委ねると発想した時点で、メディアの持つ特徴を発揮させることはできないと悟るべきです。
ひとくちにコンテンツ(ここでは教材の意)といってもコンテンツの種類は・シミュレーション型・動画型・アニメ型・テキスト+静止画型・テキスト+Web接続型など多くの種類があり、それにモバイルの特性、検索エンジンの機能、ソーシャルメディアの確認、クラウドの機能などを組み合わせて、キャンパスの授業に劣らない訴求力のある教育カリキュラムを創案することができるというのが、最新のeラーニングの強みです。
つまりここ数年でICTを取り囲む進化があまりにも速く顕在化したために、これまでICT活用には遅れていた組織でも、新しいコンセプトに挑戦する意志さえ固めれば世界最先端の教育システムを構築できる可能性が拡がっているというのが現実の世界です。教師はカリキュラム設計のプロフェッショナルに徹し、教材開発はコンテンツ開発のプロフェッショナルに任せるというのが重要なポイントです。
就職に強い専門学校でもeラーニングによる通信教育では一般の人は、就職のフォローは弱いのではないか、という疑問を持つと思われます。通信教育だから就職のフォローまでは望めないというイメージを積極的に破り、専門学校はeラーニングによる通信制の教育課程でも就職に強いというイメージを積極的に創り込むことで、世間の評価を高く維持出来ることができると予測できます。
特に就職率の苦しい中堅大学に通う大学生とか非正規雇用で人生をスタートせざるを得ない若者とかが学生生活や仕事をしながら自分に合った学習環境を創ることの出来る単位制通信教育は、新しい学びの場を提供し、かつ卒業時には専門学校の就職に強い仕組みをeラーニングによる通信制課程に活かせばこれまでにもあった社会人学生や大学生を生徒とする太い仕組みと特徴を創り込むことができます。
このような特徴の創り込みは若者の就職支援にもなり、専門学校が世の中の改善に貢献する機会を新たに創ることにもなります。これは極めて戦略的なコンセプトですが、真に世の中が求めている特色であると認識できます。
University of Phoenixを訪問した2005年時点では16万人の生徒と13000人のeラーニング担当教師がいるという社会人学生の多い当校では、生徒の就職相談や生活上のあらゆる相談をサポートフロアーで受付けて親身な相談に乗っていました。相談はE-Mailでも受け付けますがやはり悩み事の相談は肉声での対応が一番ということで、多くが電話で対応していました。eラーニングによる授業でありながらも生徒の抱える課題解決に多大なエネルギーを費やす姿勢は多いに参考になりました。
今月は成功の法則をとりあげましたが、この成功の法則を守らないことが失敗の落とし穴に繋がると考えても大きな齟齬はないと思われます。
以上で専門学校におけるeラーニングによる通信制の学科の教育課程創設に関するレポートを終了致します。
【筆者プロフィール】
特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長
NTTラーニングシステムズ株式会社 企画調査室長
小 松 秀 圀
電気工学科卒業後富士電機製造株式会社の教育担当を経て1965年より富士ゼロックス株式会社で企業内教育のプロフェッショナルとして20年の企業内教育実践経験を積んだ。1987年教育事業会社のNTTラーニングシステムズ株式会社の設立に参画、常務取締役としてメディア事業の開発で会社の基礎を構築した。現在熊本大学大学院 非常勤講師、教育システム情報学会 理事、特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長など、教育のシステム化ビジネスに永年携わると共にeラーニングや企業内教育関連の諸社会活動に参画し、二十数年アメリカの教育事情を調査するなど企業内教育を改善する社会的活動を行っている。