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eラーニングを普及させるための活動をNPO法人で行っていることから、文部科学省から依頼され、様々な高等教育関係の委員会活動や学校訪問をする機会に恵まれました。
永いこと高等教育機関と関わって感じたことは、高等教育機関では事業やプロジェクト運営を評価して改善する評価活動を行っている事例が少ないことでした。
専門学校の通信教育課程でeラーニングを選択して、学校経営を成功させるためには、eラーニングという教授法を選択する目的、成功といえる水準、結果の把握、改善策の策定、実施というサイクルを通じて、生徒が教育プログラムに満足し、学校経営側も経営結果に満足しなければなりません。
そのためには、はじめに計画した通り実践し、悪いところがあれば直しながら当初狙った水準に近づけるというのが実践的な考え方です。
これまで学校教育で行われている教育評価は、教育を実施する側の視点での評価項目が多くを占めていますが、学校経営を成功させるためには生徒目線での評価も重要になります。
社会人教育で常識になっている評価法として有名なカークパトリックの4段階評価法及び形成的評価と統括的評価という評価理論をご紹介し、生徒目線での評価法及び教育活動でのPDCA(Plan. DO. Check. Action)の廻し方の参考にして頂きたいと思います。
以下にその概要をご紹介致します。
カークパトリックの4段階教育評価法は1959年にアメリカの経営学者、カークパトリックにより発表され、大きな異論も無く50年近く多くの人々に親しまれた評価法です。
それらは
と4つの評価項目で構成されています。その概要は以下のようになります。
【1】First Level 「Reaction」Participants Reaction
この評価項目は生徒目線で教育プログラムの満足度を評価するという切り口です。
生徒は面白くない教育プログラムでは学び続ける意欲が減退します。
教育を提供する側にとって、生徒の学習意欲を訴求することは重要な事柄です。
具体的には、教育プログラムすべての構成要素を生徒目線で見た満足度レベルで評価することで、eラーニングシステムの使いやすさ、コンテンツの品質、学習サポートの質、学習継続のし易さ、授業料などが評価されます。生徒目線で教育プログラムの品質を評価するということは、最も基本的で重要な評価項目です。
【2】Second Level「Learning」Skills, knowledge, or Attitude changes
この評価項目は教育を受けたことによって生徒の目標レベルへの到達度を評価します。
これは「記憶した」ことを評価することとは違います。
教育の評価というと、一般的には記憶したことを問う試験を行いますが、憶えることは学習目標に至る一過程であって、目標はスキルが身につく、態度が変わる、考え方が変わるというように学習したことが“出来なければ意味がない”という考え方です。
生徒は記憶できたことに満足するのではなく、理解できる、または出来るようになったことで学習したことを実感します。
【3】Third Level 「Behavior」 Changes in behavior
この評価項目は学習した能力の発揮する機会の評価です。
社会人教育では教育しても学習したことを発揮できる場がなければ、会社にとっても学習した個人にとってもお互いに無駄であるという考え方です。教える内容が学習の目標とよく一致するようにID(Instructional Design)という教授法設計により教育プログラムのデザインをします。
学校教育の場合は教えるべき内容が与件である場合があり、教師がシラバスのすべてを設計する訳ではありませんが、自由になる範囲で社会での有効度を高めるということを常に念頭に置いておくと、永い目で見て生徒の能力、評判や就職率に結びつき、最終的には自校の評価を高めることにつながります。
【4】Fourth Level 「Results」 Business impact of the program
この評価項目は教育が業務遂行に役立った程度を測ります。
この評価項目はビジネスの結果と教育との相関には直接結びつかない多くの要素が絡むため、企業内教育でもこの評価ができる企業は数パーセントと云われる評価の難しい評価項目です。学校教育で例えると一例として教育プログラム品質と生徒の応募数というような評価の難しい関係です。
社会人教育の評価は一般的にこの4段階評価で行われています。
学校での評価はこのFourth Level 「Results」は外してもいいと思います。
この評価法の考え方は社会人教育で採用される評価法ですが、毎年の教育実践プロセスのなかに PDCA のサイクルを組み込み、毎年行われる教育の実践法やシラバスを改善して総合的に優れた教育システムに磨き上げていこうとする評価法です。その評価法には2つの視点があります。
それらは「教育システム改善の視点」と「投資効果の視点」です。
図表1 総括的評価と形成的評価法
「教育システム改善の視点」は形成的評価ともいい、カリキュラム、教材、TA(ティーチング・アシスタント)を含む教師、学習環境に関するデータを収集し、問題点あるいは改善すべき事柄を明らかにして教育企画段階、教材を含む教育システム開発や教育実践段階で改善を進めることです。形成的評価は教育のPDCAサイクルを廻して,教育システムを徐々に良くしていこうという評価の切り口です。
また「投資効果の視点」は統括的評価ともいい、投資効果である教育目標の達成度を把握し、投資(教育事業)継続の経営判断を行う評価法です。
つまり学校経営の視点から見た教育事業の事業継続や事業廃止を決断するため評価項目です。評価項目は当然学校経営上、重要な項目により構成されます。
このようなことから形成的評価は 教育システムの開発・実施のプロセスにフィードバックされ,総括的評価は教育事業の継続の可否策定にフィードバックされます。
上記のような評価体制は学校経営のトップが主導して行われることによって、その効果を発揮する仕組みで学校経営陣の参画をなくしてはその成果を得ることが出来ないというのが最も基本的な事柄です。
経営陣が参画しての評価活動をすることの重要性は頭でわかっていても、もっとも実践の困難な事柄です。
文部科学省の現代GPなどの支援プログラムに参画し、学校のプロジェクト運営を見ても経営陣トップの参画の弱いプロジェクトは一時的に公的資金を得て活動しても公的資金援助が無くなるとプロジェクト資金が無くなり、プロジェクトの継続が困難になり、折角築き上げたプロジェクトの成果を継続できなくなる事例がありました。経営陣がプロジェクトに参画し、プロジェクトの目的や成果を学校経営に照らして正しく認識をしていればこのような悲劇は無くなるのですが、評価活動は実践が難しく、最も重要なテーマです。
次回は、「海外のeラーニング活用成功事例」についてお話します。
【筆者プロフィール】
特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長
NTTラーニングシステムズ株式会社 企画調査室長
小 松 秀 圀
電気工学科卒業後富士電機製造株式会社の教育担当を経て1965年より富士ゼロックス株式会社で企業内教育のプロフェッショナルとして20年の企業内教育実践経験を積んだ。1987年教育事業会社のNTTラーニングシステムズ株式会社の設立に参画、常務取締役としてメディア事業の開発で会社の基礎を構築した。現在熊本大学大学院 非常勤講師、教育システム情報学会 理事、特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長など、教育のシステム化ビジネスに永年携わると共にeラーニングや企業内教育関連の諸社会活動に参画し、二十数年アメリカの教育事情を調査するなど企業内教育を改善する社会的活動を行っている。