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eラーニングはモバイルで学ぶというイメージが急速に広まってくると予測されます。
モバイルでの学びが増えるというのは統計的にも正しい認識で、モバイルラーニングは学習を進める上で発生する様々な制限を大幅に軽減できるメリットがあります。また最近のモバイル関連の各種サービスやテクノロジーの発展は生徒の利便性のみならず、eラーニングを運営する学校経営上の制限事項も軽減します。
eラーニングの最新テクノロジーが提供するメリットを整理するとともに、成人教育学から発展する生徒中心の学習法についてお話し致します。
【1】投資、技術者の必要性を少なくし、安全性を高めるクラウド
クラウドと言う意味はユーザーサイドから見ると2つの意味があります。ひとつはクラウドコンピューティングでもうひとつはシンクライアントという意味です。それぞれ簡単にご説明します。
*クラウドコンピューティング
クラウドコンピューティング普及初期には・組織の重要な情報を社外に出すわけには行かない。・情報が海外の何処におかれているか判らない。・セキュリティーが心配などクラウドに対するマイナスイメージが多くありました。
ところが東日本大震災を境にクラウドコンピューティングへの評価が正反対のプラスに変化しました。
現在ではクラウドコンピューティングは
などのメリットが認識され、新しいシステムを導入する際はクラウドの活用が当然という意識に変わってきました。
*シンクライアント
コンピュータやスマートメディアを使う際、データは基本的に端末に記録させることなくすべてブラウザーを経てクラウドにデータを記録させる使い方です。
このことによって端末を紛失した場合などでも情報を漏洩させることなく、トラブルを解決すことができ、やがて端末は個人の端末を使えるBYOD(Bring Your Own Device) という仕組みも定着してきます。
【2】主流になるモバイル端末
モバイル端末は企業の業務でもパソコンに代わって重要な地位を占めることは確実視されており、学習にモバイルを活用することは大きな潮流と判断できます。
【3】コミュニケーションを行い易いソーシャルメディア
SNSなどによるソーシャルメディアによるコミュニケーション、コラボレーションは学習活動の中で重要なツールとして成長すると考えられます。
図表1 人とひとのつながりが新しい学びのポイント
【4】端末の管理を簡単にするMDM(Mobile Device Management)
モバイル端末などを一括して管理するサービスで、セキュリティー管理、紛失の際の処理など不慣れでかつリスクのある業務を代行する比較的新しいサービスです。MDMを採用することでモバイルの管理は非常に楽に安全に活用することができます。
【5】使いやすい通信インフラ
モバイル用インフラはLTE(Long Term Evolution)公衆無線LAN, WiMAXなどブロードバンドの普及が進み高速な通信環境で映像通信も可能になり、モバイルの使い勝手はパソコンに勝るとも劣らないレベルになります。
【6】映像を簡単に使える映像通信プラットフォーム
You tube、Ustreamなどの映像通信用プラットフォームが日常に使われることで、教育に有力な情報伝達手段となる映像通信が容易に使えるようになります。
【7】だれでも使える操作性
モバイルの使い方はやさしく、誰でも使えるという特徴は学習システムとしては当然持つべき特徴であり、運用段階で失敗を犯さないための大きな特徴です。
【8】世界どこでも使えるグローバル
クラウド環境でブラウザーを活用したプラットフォームはインターネット上で世界どこでも使え、グローバル社会で基本的に備えるべき重要なシステムの素質です。
この特徴を活かして海外のOnline Schoolなどは海外の生徒を確保している例もあります。
ただソーシャルメディアを活用するには良いことばかりではなくソーシャルメディアポリシーといわれるソーシャルメディアをうまく活用する為のリスク回避の教育や制度を実践する必要があります。
これまでの教授法という言葉はPedagogyを翻訳した言葉といわれ、語源の意味は子供に教えるというニュアンスを含み、教師が生徒への教え込み方の授業設計であることはご高尚の通りです。このモデルの前提には教師の行う教育に生徒は素直に従うという前提があるように思えます。
成人教育の分野ではいまモチベーションが大きなテーマになっています。生徒が成人になるにつけ、教育プログラムに何の迷いも無く懸命に学習するという前提が成立し難くなってきていることに課題があります。
そこでAndragogyという成人教育学の考え方が広まってきています。
Andragogyの考え方は成人の学習者が最も効果的に学ぶようになる要素は、自分が学習目標を決め、学習内容が学習目標と関連性があり、その学習方法が適切であり、自分のニーズに合い、自分の進歩がわかり、自分が歓迎され、尊重されていることがわかり、常に進歩する目標を見つけられるときである、という考え方です。このような成人教育学は社会的構成主義といわれる学習法で、生徒が中心になり、自分の欲しい情報を入手し、学習仲間や教師とコミュニケーションやコラボレーションを経て、学習を進める時に活かされます。
学習のために情報の入手、コミュニケーション、コラボレーションを行う学習法の実践にICT、とりわけクラウドを活かしたプラットフォーム、ソーシャルメディアやソーシャルメディアが活用されるという関係です。
この学習法ではツール類はあくまで“ひと”による学びの補助で学びの中心には“ひと”が存在する姿が浮かんできます。
これまでの学習法を行動主義とすれば、社会的構成主義の特徴はコミュニケーションやコラボレーションが大きな役割を果たし、学習の成果は“記憶した”ではなく学んだことが“出来る”と言うことになります。この学習の成果は生徒が成人に近づくほど理想に近づくといえるのかもしれません。モバイルラーニングは基本的にこのような学習法を実践しやすい特性を有していることに注目できます。
次回は、「eラーニングを活用した教育の評価法と評価体制」についてお話します。
【筆者プロフィール】
特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長
NTTラーニングシステムズ株式会社 企画調査室長
小 松 秀 圀
電気工学科卒業後富士電機製造株式会社の教育担当を経て1965年より富士ゼロックス株式会社で企業内教育のプロフェッショナルとして20年の企業内教育実践経験を積んだ。1987年教育事業会社のNTTラーニングシステムズ株式会社の設立に参画、常務取締役としてメディア事業の開発で会社の基礎を構築した。現在熊本大学大学院 非常勤講師、教育システム情報学会 理事、特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長など、教育のシステム化ビジネスに永年携わると共にeラーニングや企業内教育関連の諸社会活動に参画し、二十数年アメリカの教育事情を調査するなど企業内教育を改善する社会的活動を行っている。