学生募集から就職支援まで、最新の情報を集約。
これまで新しいテクノロジーを活用したeラーニングのメリットをおはなししてきました。
一方ではeラーニングを活用の難しさを指摘する意見があるのも事実です。
少し古いデータですがeラーニング白書2007/2008年版ではICTを活用する際、スタッフ不足を約6割、スキル不足を約5割、ノウハウ不足を約4割の高等教育機関で懸念を感じるというデータもあります。
社会人を生徒とするテキストや郵便での通信教育は学習意欲の維持や学習仲間とのふれ合い感覚を持たせることが困難という課題を抱えています。
従来のメディアによる通信教育の課題は専門学校にとっても大きな課題と考えられます。
図表Ⅰ 自分に合った生徒中心の能動的学習環境
メディアで学ぶことに永い歴史と多くの教授法の専門家を擁するアメリカでの通信教育の課題克服法は、日本での通信教育課程成功へのヒントになるかもしれません。
通信教育課程のベンチマークというとまず筆頭に挙げられるのがフェニックスにあるUniversity of Phoenixです。
University of Phoenixは主に社会人を生徒とする学部、大学院の高等教育機関で生徒数が40万人を超えるというマンモス大学です。
おはなしを伺うと生徒一人ひとりをしっかりとフォローするプログラム、徹底した学習品質管理、生徒中心の調べ学習を進化させた教授法とテクノロジーの組み合わせにより大きな成功を収めています。
特に注目すべき点は、社会的構成主義の考え方を基本にはっきりとした学習目標を掲げ、Faculty(教員)は基本的知識を提供した後、生徒は自分で情報を取得し、学習仲間やTA(Teaching Assistant:補助教員)とのコミュニケーションやコラボレーションを通じて自分の考えや会得した事柄をレポートする過程において自分で評価をしたり、コミュニケーションの結果に共感したりして学習を続ける学習法にあります。
ソーシャルメディアの活用により仲間とコミュニケーションし、共感しながら学ぶ学習環境を構築し易いという特徴があります。自分の意見を仲間に晒すと学習仲間はいい意見を出すし、厳しい指摘をするのも学習仲間だという話はUniversity of Phoenixでも早稲田大学のeスクールの先生からもお聞きしたことがあります。
eラーニングによる教育の難しさはやはり教え込むことの困難さにあると言われます。
専門学校ではスキル教育の科目が多く、eラーニングでスキル教育はできるのかという疑問がでてきます。この点については先の号で取り上げたAcademy Arts of Universityにこの課題に挑戦した事例を見ることができます。
Academy Arts of Universityではeラーニングコンテンツはあらゆる種類のコンテンツを活用し、教える内容によって、最適な種類のコンテンツを開発しています。
それらは一般的なアニメ、動画、CG、シミュレーション、パワーポイントのノートなど、あらゆる種類のコンテンツを使い分けています。芸術系大学らしい見ていて楽しいと思えるような、きれいにデザインされたコンテンツ創りにエネルギーを注いでいました。
特にスキルを教える教材は教えるスキルを細かいステップに分け、各ステップのポイントやコツをこまかく指導する教材を開発することで、彫刻や絵画などのスキル教育の指導もできるとのことです。
通信を使った指導では高画質のカメラやビデオなどを使うことで、生徒の作品を詳細に観察することができ、評価、指導なども充分可能であるとのはなしもありました。
このようにeラーニングにはまだまだ工夫できる未知のノウハウがあるのも大きな魅力です。
特にスマートメディアなどを活用したeラーニングは行動の速い若者の感性に合い、ソーシャルメディアなどで学習仲間とのコミュニケーション、コラボレーションを通じて学ぶ学習活動は若者の学習離脱防止には大きな可能性があります。
スマートメディアによるモバイルラーニングでは、まさにJust in Placeといえるようなどこでも使えるという、使いやすい学習環境を提供でき、学習の制限を緩和できる効果は軽視できません。
またスマートメディアといえばSNSなどのソーシャルメディアとの相性がよく、Face bookなどのソーシャルメディアで生徒同士のコミュニケーションやコラボレーションが行いやすいことも新しいテクノロジーに期待できる大きな特徴です。
スマートメディア、ソーシャルメディア、クラウドを活用するSaaS(Software as a Service:Pay for Useのビジネスモデル)、高速通信インフラおよびMDM(Mobile Device Management:スマートメディアなどの管理をするサービス)などいま普及を始めたこれらの新しいテクノロジーはこれからの通信教育課程実践の壁を低くする効果は大きい、と期待されます。
しかしこのプロジェクトを成功させるには多くの知恵と努力を必要とすることも事実です。そのために幾つかの学校が協力関係を結び、みんなで知識、知恵、情報、ノウハウ、リソースを出し合い成果を分け合う組織を形成し、革新のスピードを上げ、成果を確実なものにする取り組みをされることも成功するための戦略のひとつです。
そのような先行事例としてCCC On Lineはコロラド地域にある専門学校が新しい時代に対応する教育リソースを共同して開発するコンソシアム組織がありました。
あらゆる意味で、今がeラーニングによる通信教育課程を構築する絶好の機会のように思えます。
eラーニングの先達が残した有名な教えがあります。それらは
まず始めて改善のサイクルを速く廻すのが成功への最短コースかもしれません。
次回は、「eラーニング環境の構築、最新テクノロジー事情」についてお話します。
【筆者プロフィール】
特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長
NTTラーニングシステムズ株式会社 企画調査室長
小 松 秀 圀
電気工学科卒業後富士電機製造株式会社の教育担当を経て1965年より富士ゼロックス株式会社で企業内教育のプロフェッショナルとして20年の企業内教育実践経験を積んだ。1987年教育事業会社のNTTラーニングシステムズ株式会社の設立に参画、常務取締役としてメディア事業の開発で会社の基礎を構築した。現在熊本大学大学院 非常勤講師、教育システム情報学会 理事、特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長など、教育のシステム化ビジネスに永年携わると共にeラーニングや企業内教育関連の諸社会活動に参画し、二十数年アメリカの教育事情を調査するなど企業内教育を改善する社会的活動を行っている。