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23年4月に文部科学省が掲げた「教育の情報化ビジョン」で目標とする“21 世紀にふさわしい学びと学校の創造”は海外の諸国、例えばシンガポールのFuture Schools、OECE(Organisation Europeenne de Cooperation Economique)のSchool for Tomorrow Project 、アメリカのSchool2.0、イギリスのBuilding for the Futureと、諸外国とは目標到達年度、規模の差はあるが、コンセプトは類似していると云える。
先日、韓国の教育の情報化を指導する機関であるKERIS(Korea Education & Research Information Service)のKey Manと打ち合わせを持つ機会があったが、韓国ではICT教育というワーディングは使わずSMART教育というワーディングを使うとのことであった。
21世紀の学習者の力量を強化するために、ICT教育というワーディングから教育体制を革新するというイメージを含ませるためにSMART教育と名付けたとの事である。
韓国のSMART教育推進戦略実行計画の資料によればSMART教育のSMARTの各文字には以下の革新を現す意味が込められているという。
いつでも、どこでも自由に学習することができ、授業の方法が多様化して学習選択権が最大限に保障される教育環境
生徒の学習意欲は高等教育でも大きな課題であることは共通した認識となっているがベネッセ教育研究開発センターの調査によれば、やはり高等教育で最大の課題あることが示されている。
SMART教育のような教育の情報化が実現することにより学校には以下のようなメリットが期待できる。それらは
教育の質改善:授業はこれまでの教師単独での授業運営から、eラーニングシステムに支えられた教師、学習支援グループによるグループ運営になり、授業改善のサイクルを廻すことにより授業の質を向上させる機会を創出できる。
教育用知的資産の蓄積:eラーニングシステムによりデジタル化されたコンテンツや参考情報が蓄積され学校として知的資産の蓄積が図れる。
教育量の拡大:大規模学校などではeラーニング化することにより、LA(Learning Assistant)などの採用により、少ない教師で多くの生徒を教育することが可能になる。
通学可能地域の拡大:eラーニングによる学科運営を実現すれば、生徒の地域的制限の緩和に役立ち経営的なメリットを追求できる可能性がある。
図表1 生徒の学習意欲は高等教育の大きなテーマ<引用許可取得済>
しかし最新のeラーニングを活用する最大のメリットは生徒にもたらせることにある。
生徒がスマートメディアで学習するようになると、これまでのパソコンのあるところなら、いつでも、どこでも、ということから、本当にいつでもどこでもとその自由度は飛躍的に拡がる。またスマートメディアで学習することは電話を使うように束の間の学びも億劫にならない。アメリカの学習デザインのエキスパートClark.N.Quinnは著書「m Learning」でこのようなメリットを“eラーニングのJust in Timeに加えてJust in Placeという特徴が加わる”と表現している。
スマートメディアを使った学習では生徒が興味を持って、自分の能力に合わせて、自分に理解を助ける情報を探しながら自主的に学習を進められ、ストレスの少ない学習環境が得られることにある。
学習目標そのものは決して生やさしい目標ではないが、生徒同士のコミュニケーションやコラボレ-ションを通じて、自分の学習目標に合う、多くの情報を取り込め、自主的に学習を進めることのできる学習環境が生徒の学習意欲を継続させることができる。
このことが教育の情報化が進化したときの最大のメリットであり、情報量の多い知識基盤社会に合った正統な学びのスタイルである。
学習方法として教科書の知識の記憶を主目的とする従来の教育の考え方をLearning1.0とすればLearning1.0に加え、学習仲間とのコミュニケーションやコラボレ-ション機能を活用し、主体的に自己に必要な知識を構成し、吸収する学習法をLearning2.0と名付けている。スマートメディアやソーシャルメディアの最新テクノロジーの活用は学習の主体は自分の目的とレベルに合った学びをまさに何時も何処でも行うことができ、構造的に学習者のモチベーション維持をしやすいことから、欧米ではこのような学び方は生涯学び続ける教育法にも最適であるということからLearning2.0より更に進んだLearning3.0と唱える議論も出始めている。
最新のスマートメディアを活用すれば、まさにどこでもいつでも学習が可能になる“Just in Time & Place”といえるような学習環境を創ることが可能になる。
このような学習環境は、学校経営の面からも、生徒の学習のしやすさから見ても、これまでの教授法に比較して数倍の価値のある学習環境を構築できると予測できる。日本でも通信制のルネサンス高等学校などは数千台のスマートメディアを導入して、eラーニングの良さとリアルな授業の良さを取り合わせたブレンデッドラーニングを展開しており、学習成績にも好結果が得られるデータも取れ始めている。
国際的にもOECE、アメリカ、シンガポールそして韓国も国を挙げてeラーニングの新しい可能性を追求し続けている。
次回は、「ICT先進国がeラーニングを活用した教育をめざす本当の狙い」についてお話しします。
【筆者プロフィール】
特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長
NTTラーニングシステムズ株式会社 企画調査室長
小 松 秀 圀
電気工学科卒業後富士電機製造株式会社の教育担当を経て1965年より富士ゼロックス株式会社で企業内教育のプロフェッショナルとして20年の企業内教育実践経験を積んだ。1987年教育事業会社のNTTラーニングシステムズ株式会社の設立に参画、常務取締役としてメディア事業の開発で会社の基礎を構築した。現在熊本大学大学院 非常勤講師、教育システム情報学会 理事、特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム 会長など、教育のシステム化ビジネスに永年携わると共にeラーニングや企業内教育関連の諸社会活動に参画し、二十数年アメリカの教育事情を調査するなど企業内教育を改善する社会的活動を行っている。